こどもの権利条約という言葉を聞いたことはありますか。
正式には「児童の権利に関する条約」といい、こどもが一人の人間として大切にされながら生きていくために定められた国際的な約束です。
こどもの権利条約で大切なのは、こどもを単に「大人が守ってあげる存在」として見るだけではないという点です。
こどもも、自分の気持ちや考えをもち、自分らしく生きる一人の人です。
つまり、こどもの権利条約は、こどもを「保護の対象」としてだけでなく、権利の主体として考えるための大切な土台になります。
こどもの権利条約の基本的な考え方
こどもの権利条約は、内容をわかりやすく整理すると、よく4つの柱で説明されます。
- 生きる権利
- 育つ権利
- 守られる権利
- 参加する権利
この4つは、こどもの権利条約を理解するうえでとても大切です。
ただし、こどもの権利条約はこの4つだけで終わるものではありません。
実際には、差別されないこと、こどもの最善の利益を考えること、こども自身の意見を尊重すること、年齢や発達に応じて支援することなど、こどもを一人の人として大切にするための考え方が含まれています。
1. 生きる権利
こどもには、命を守られ、健康に育つ権利があります。
十分な医療を受けること、栄養を得ること、安全な環境で生活することなどは、こどもが生きていくために欠かせません。
ここでいう「生きる権利」は、単に命があるという意味だけではありません。
こどもが安心できる環境の中で、心も身体も大切にされながら成長していくことが含まれます。
病気や障害があるこどもであっても、その子の命や健康、生活が大切にされる必要があります。
2. 育つ権利
こどもには、自分らしく成長する権利があります。
教育を受けること、遊ぶこと、休むこと、友だちと関わること、自分の考えを育てることも、こどもの成長にとって大切です。
大人から見ると、勉強やしつけが重視されやすいかもしれません。
しかし、こどもにとっては、遊びや休息も成長に欠かせない時間です。
遊びの中で、こどもは人との関わり方を学び、自分の気持ちを表現し、社会の中でどう生きていくかを少しずつ身につけていきます。
育つ権利とは、こどもが大人の都合に合わせて成長するという意味ではありません。
その子らしさを大切にしながら、安心して成長できる環境を整えることが大切です。
3. 守られる権利
こどもには、虐待、暴力、差別、搾取などから守られる権利があります。
こどもは大人よりも立場が弱く、自分だけで危険から逃れたり、不当な扱いに声を上げたりすることが難しい場合があります。
だからこそ、家庭、学校、地域、医療、社会全体でこどもを守る仕組みが必要です。
ただし、「守る」ということは、大人がすべてを一方的に決めることではありません。
こどもを守るためには、こども自身が何に困っているのか、何を怖いと感じているのか、どのような助けを必要としているのかを知ることも大切です。
こどもの安全を守ることと、こどもの声を聞くことは、対立するものではありません。
むしろ、こどもの声を聞くことは、その子をより適切に守るために必要な関わりです。
4. 参加する権利
こどもには、自分に関係することについて意見を表し、その意見を大人に受け止めてもらう権利があります。
これは、こどもの権利条約の中でも特に大切な考え方の一つです。
家庭、学校、医療の場面などで、こどもに関係することが決められるとき、こども自身の気持ちや考えが無視されてよいわけではありません。
もちろん、こどもがすべてを一人で決めるという意味ではありません。
大切なのは、年齢や発達段階に応じて、わかりやすい説明を受け、自分の気持ちを表し、その意見が大人に真剣に受け止められることです。
「こどもだからわからない」と決めつけるのではなく、「こどもにもわかるように伝える」ことが大切です。
4つの柱だけでは説明しきれない大切な考え方
こどもの権利条約を理解するときには、4つの柱に加えて、いくつかの重要な考え方も押さえておく必要があります。
差別されない権利
こどもの権利は、すべてのこどもにあります。
性別、国籍、家庭環境、障害の有無、病気の有無、経済状況などによって、権利が軽く扱われてよいわけではありません。
たとえば、病気があるこども、障害があるこども、医療的ケアが必要なこどもであっても、同じように一人の人として尊重される必要があります。
「この子は病気だから仕方ない」「小さいから意見を聞かなくてもよい」と考えてしまうと、こどもの権利が見えにくくなることがあります。
どのような状況にあるこどもであっても、その子の尊厳や気持ちは大切にされるべきです。
こどもの最善の利益
こどもに関わることを決めるときには、そのこどもにとって何が最もよいのかを第一に考える必要があります。
これを「こどもの最善の利益」といいます。
ただし、ここで注意したいのは、最善の利益は大人が一方的に決めるものではないということです。
大人から見て「これがこの子のため」と思うことが、必ずしもこども自身の気持ちや生活に合っているとは限りません。
医療の場面であれば、治療の安全性や医学的な必要性はとても重要です。
一方で、こどもにとっては、痛みへの不安、学校生活、友だちとの関係、家族と過ごす時間、自分らしさも大切な意味をもちます。
こどもの最善の利益を考えるためには、医学的な判断だけでなく、こども自身の生活や気持ちを含めて考えることが必要です。
意見を表す権利
こどもには、自分に関係することについて意見を表す権利があります。
この意見は、はっきりした言葉だけとは限りません。
泣く、黙る、嫌がる、視線をそらす、保護者の後ろに隠れる、同じことを何度も確認する。
こうした反応も、こどもが何かを感じているサインかもしれません。
特に年齢が低いこどもや、緊張しているこども、病気や治療によってつらい状況にあるこどもは、自分の気持ちを言葉にすることが難しい場合があります。
そのため、大人は「言わないから大丈夫」と受け取るのではなく、こどもの表情や行動に込められた意味を丁寧に考える必要があります。
発達に応じた支援
こどもの権利を大切にすることは、こどもに大人と同じ判断を求めることではありません。
こどもは成長の途中にあり、年齢や発達段階によって、理解できることや表現の仕方が異なります。
だからこそ、こどもの発達に応じた支援が必要です。
たとえば、難しい言葉を使わずに説明する、絵や模型を使って伝える、選択肢を少なくして聞く、考える時間をつくる、言葉以外の表現も受け止めるといった工夫があります。
こどもに意見を聞くということは、こどもに責任を押しつけることではありません。
こどもが自分に関係することを理解し、自分なりに気持ちを表せるように支えることが大切です。
小児医療におけるこどもの権利
小児医療の場面では、こどもの権利条約の考え方がとても重要になります。
病気や治療に関する説明は、保護者に対して行われることが多くあります。
もちろん、保護者への説明や同意は非常に大切です。
しかし、治療を受けるのはこども自身です。
こども自身が、「何をされるのか」「なぜ必要なのか」「どのようなことが不安なのか」「どうしてほしいのか」を表す機会をもつことは、こどもの権利として大切にされるべきです。
こどもが治療方針のすべてを決定するわけではありません。
それでも、こどもの声を聞くことには大きな意味があります。
こどもは、自分の身体や生活に関わる経験の当事者です。
だからこそ、医療者や家族は、こどもの言葉、表情、沈黙、迷い、不安にも目を向ける必要があります。
「こどもだからわからない」ではなく「こどもにもわかるように伝える」
医療や教育の場面では、つい大人が中心になって物事を決めてしまうことがあります。
「まだ小さいからわからない」
「説明しても難しい」
「親に話せば十分」
このように考えてしまう場面もあるかもしれません。
しかし、こどもの権利条約の考え方に立つと、大切なのは「こどもにはわからない」と決めつけることではありません。
大切なのは、こどもにわかる形で伝えることです。
こどもが理解できる言葉で説明すること。
こどもが話しやすい雰囲気をつくること。
すぐに答えを求めず、考える時間をつくること。
不安や拒否を「わがまま」と決めつけず、その背景を考えること。
こうした関わりによって、こどもは自分に起きていることを少しずつ理解し、自分なりの気持ちを表すことができます。
こどもの権利を大切にするために大人ができること
こどもの権利を大切にするというと、特別な制度や専門的な知識が必要だと感じるかもしれません。
しかし、日々の関わりの中でできることも多くあります。
- こどもにわかる言葉で説明する
- 「どう思う?」と聞く
- こどもの話を途中で遮らない
- 嫌がる理由を確認する
- こどもの前で、こどもを置き去りにして話を進めない
- こどもの気持ちを「わがまま」と決めつけない
- 言葉以外の表情や行動にも目を向ける
こうした一つひとつの関わりが、こどもを権利の主体として大切にすることにつながります。
まとめ
こどもの権利条約は、こどもを守るためだけの条約ではありません。
こどもを一人の人として尊重し、こども自身が自分の人生に関わる存在であることを大切にするための条約です。
こどもには、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利があります。
さらに、差別されないこと、こどもの最善の利益を考えること、こども自身の意見を尊重すること、発達に応じて支援することも重要です。
こどもは、大人に守られる存在であると同時に、自分の気持ちや考えをもつ一人の人です。
「こどもだからわからない」と決めつけるのではなく、こどもにもわかるように伝えること。
こどもが表しやすい方法を一緒に探すこと。
そして、こどもの声を大人が真剣に受け止めること。
その積み重ねが、こどもの権利を大切にする関わりにつながっていきます。

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