子どもから突然、こう聞かれたことがあります。
「ぼくってもうすぐ死ぬの?」
そのとき、あなたなら何と答えるでしょうか。
「そんなこと言わないの」
「大丈夫だよ」
「どうしてそんなことを聞くの?」
子どもを不安にさせたくない。間違ったことを伝えたくない。自分が答えてよいのかも分からない。
いろいろな考えが浮かび、言葉が出なくなることもあると思います。
先に結論。
「ぼくってもうすぐ死ぬの?」という問いに、どの子にも当てはまる一つの正解はありません。
すぐに「大丈夫」と打ち消したり、その場で病状を説明したりする前に、その子がなぜそう思ったのか、何を知りたくて尋ねたのかを確かめます。
「なんでそう思ったの?」という問い返しは、そのための入口になります。ただし、子どもの質問をかわして終わるのではなく、語られた思いを受け止め、必要な人と共有し、その子が求めていることに応えていくところまでが大切です。
5歳の子どもから突然の言葉
この言葉を向けられたのは、私が小児科で働いていた頃でした。
尋ねたのは、5歳の子どもです。
深刻な話をしていたわけではありません。
おもちゃを取りに行くために、一緒に廊下を歩いていたときでした。
世間話でもするような調子で、その子は言いました。
「ぼくってもうすぐ死ぬの?」
その頃の私は、まだ緩和ケアについて専門的に学んでいませんでした。
突然、頭を強く殴られたような衝撃を受けました。
どうしよう。
何と答えればよいのだろう。
考えがまとまらないまま、数秒間の沈黙が続きました。
その沈黙を破ったのは、その子でした。
私をまっすぐ見たまま首をかしげて、もう一度、短く尋ねました。
「ん?」
その言葉で我に返った私が返したのは、次の一言でした。
「なんでそう思ったの?」
質問に質問で返してしまった。
子どもが求めている答えではなかったかもしれない。
そのときは、そう思いました。
けれど、その子は不満そうな様子を見せることなく、自分が感じていたことを話し始めました。
「なんでそう思ったの?」と尋ねた意味
緩和ケアを学んだ今、あのときの返答は、子どもの問いを理解するための入口にはなっていたと思います。
「もうすぐ死ぬの?」という同じ言葉でも、子どもが尋ねる理由は一人ひとり違います。
- 身体の変化から、病気が悪くなっていると感じた
- 家族や医療者の表情、声、会話の変化に気づいた
- 同じ病気の子どもが亡くなったことを知った
- 退院の話が出なくなったことを不思議に思った
- 死ぬときに痛いのか、家族と離れるのかが心配になった
- 自分が感じていることを話してもよいか確かめたかった
これは考えられる背景の例であり、目の前の子どもにそのまま当てはまるとは限りません。
言葉の表面だけを受け取って答えを決めると、その子が本当に知りたかったことから離れてしまう可能性があります。
「どうしてそう思ったの?」
「何か気になることがあった?」
「誰かに何か聞いたの?」
こうした問いかけによって、子どもが見たこと、聞いたこと、感じたことを話せるようになる場合があります。
問いかけたあとは、答えを急がせずに待ちます。
沈黙している時間にも、子どもは自分の経験を言葉にしようとしているかもしれません。
問い返すだけで終わらせない
「なんでそう思ったの?」は、便利な返答ではありません。
子どもが話し始めたあとも質問を重ね続けると、尋問されているように感じることがあります。また、看護師が答えたくないために質問を返したと受け取られる可能性もあります。
子どもが背景を話してくれたら、まず、その言葉を受け止めます。
たとえば、次のように返せます。
- 「そう思っていたんだね」
- 「身体がしんどくなって、心配になったんだね」
- 「みんなの話し方が違うように感じたんだね」
- 「聞いてくれてありがとう」
- 「そのことを、もう少し一緒に話してもいい?」
「話してもいい」「聞いてもいい」と子どもが感じられることが、次の対話につながります。
「大丈夫」とすぐにフタをしない
子どもを安心させたくて、「大丈夫」「死なないよ」と答えたくなることがあります。
しかし、看護師にも分からないことを断定すると、その後の経過によっては子どもの信頼を損なう可能性があります。
また、子どもが身体や周囲の変化から感じ取ったことをすぐに否定すると、「この話はしてはいけない」「聞いても答えてもらえない」と感じさせてしまうかもしれません。
安心させることと、事実ではない言葉で不安を打ち消すことは同じではありません。
すぐに答えられないときは、分からないことを隠さずに伝える方法もあります。
- 「大事なことだから、きちんと考えて答えたい」
- 「今、私に分かることを話してもいい?」
- 「先生やおうちの人とも確認して、また話そう」
- 「今一番心配なのは、どんなこと?」
その場ですべてを説明できなくても、子どもの問いをなかったことにしない姿勢は示せます。
子どもの理解に合わせて、分かる言葉で答える
子どもは、年齢や発達だけで死を理解しているわけではありません。
自分の病気や治療の経験、家族との会話、身近な人やペットとの別れ、絵本や映像など、さまざまな経験を通して死を捉えています。
同じ5歳でも、知っていることや知りたいことは異なります。
何をどこまで話すかを考える前に、その子がすでに何を知っているのかを確かめます。
- 「病気のことを、今はどんなふうに聞いている?」
- 「死ぬって、どんなことだと思っている?」
- 「知りたいことを教えてくれる?」
- 「今は聞きたくないこともある?」
説明するときは、子どもが使った言葉を手がかりにしながら、短く、具体的に伝えます。
一度にすべてを説明する必要はありません。
子どもの反応を見ながら、「ここまででどう思った?」「もう少し聞きたい?」と確認します。
死について説明する場合、「眠る」「遠くへ行く」といった比喩は、子どもに誤解や新たな不安を与えることがあります。
必要な場面では、「死ぬ」「身体が動かなくなる」など、発達に合わせた具体的な言葉を使います。
看護師だけで答えを抱え込まない
子どもの質問を受け止めることと、看護師が一人で病状や予後を説明することは別です。
子どもに伝えられている内容、家族の意向、主治医の説明、治療方針が分からないまま、予後を断定することはできません。
まずは子どもの言葉を聞き、何を心配し、何を知りたがっているのかを捉えます。
その内容を、主治医、家族、心理職、緩和ケアチームなどと共有し、誰が、いつ、どのように応えるかを考えます。
ただし、「先生に聞いて」と話を終わらせてしまうと、子どもは拒まれたように感じるかもしれません。
「一緒に考えたい」「確認して戻ってくる」と伝えたなら、実際に話し合い、もう一度その子のところへ戻ります。
子どもの問いをチームにつなぐことも、問いを受け取った看護師の役割です。
家族が「子どもには言わないで」と考えているとき
家族は、子どもを守りたいという思いから、病状や死について話すことを望まない場合があります。
その気持ちをすぐに否定するのではなく、何を心配しているのかを聞きます。
- 子どもが希望を失うのではないか
- 不安を強めるのではないか
- どのような言葉で話せばよいか分からない
- 家族自身が現状を受け止めきれていない
家族の不安を聞きながら、子どもがすでに気づいていることや、自分から質問していることも共有します。
子どもに何を伝えるかという結論だけを急ぐのではなく、子どもと家族がそれぞれ何を感じているのかを確かめ、対話を続けられる方法をチームで考えます。
死について話すことは、希望を奪うことなのか
死について触れると、子どもの希望を奪ってしまうのではないかと心配になることがあります。
けれど、希望は「治ること」だけではありません。
家に帰りたい。家族と過ごしたい。痛みを少なくしたい。友達に会いたい。好きなことを続けたい。
病状が変化しても、子どもが望むことまでなくなるわけではありません。
子どもが死について話したからといって、会話のすべてを死に向ける必要もありません。
その子が今、何を心配し、誰と、どのように過ごしたいのかを聞くことは、その子が今を生きることを支える対話にもなります。
心の準備が必要なのは、子どもに尋ねられた瞬間だけではない
「もうすぐ死ぬの?」という問いは、申し送りのあとやカンファレンスの最中に出てくるとは限りません。
廊下を歩いているとき、遊んでいるとき、ケアをしているときなど、何でもない日常の中で突然語られることがあります。
その瞬間に完璧な言葉を返すことは難しいと思います。
私も、あのとき準備できていたわけではありません。
それでも、立ち止まって子どもの言葉を聞くことはできました。
心の準備とは、あらかじめ模範解答を覚えておくことではありません。
死という言葉が出ても話題をそらさないこと。
分からないことを分からないまま断定しないこと。
子どもが見ているものや感じていることを知ろうとすること。
そうした姿勢を普段からもっておくことだと思います。
まとめ
- 「もうすぐ死ぬの?」という問いの背景は、子どもによって異なる
- すぐに否定したり説明したりする前に、なぜそう思ったのかを確かめる
- 「なんでそう思ったの?」は、質問をかわすためではなく、子どもの経験を知るために使う
- 問い返したあとは、子どもが話したことを受け止め、必要な応答へつなげる
- 分からないことや確認が必要なことは、正直に伝えてよい
- 看護師一人で抱え込まず、家族や多職種と共有する
- あとで話すと伝えた場合は、子どものところへ戻って対話を続ける
「ぼくってもうすぐ死ぬの?」
あの子が本当に求めていた答えを、私は今も断定することはできません。
ただ、子どもがその言葉を口にしたとき、私は立ち止まりました。
そして、その子は続きを話してくれました。
すぐに正しい答えを返すことよりも、子どもが何を見て、何を感じ、何を知りたいと思っているのかを聞くことから始まる対話があります。
死についての言葉が出たときにも、話をそらさずにいられる看護師でありたいと思います。
あわせて読みたい
参考資料
- National Cancer Institute:Communication in Cancer Care(PDQ®)
- Marsac ML, et al. Supporting Family Communication during End-of-Life Care: A Systematic Review.
- Cousino MK, et al. Communication about prognosis and end-of-life in pediatric oncology.
- Kenney AE, et al. End-of-life communication among caregivers of children with cancer.
おわり。

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