医療現場では、「患者さんのQOLを大切にする」「QOLが低下している」といった言葉がよく使われます。
では、何をもってQOLが高い、低いと判断するのでしょうか。
痛みがないこと。
自分で歩けること。
食事がとれること。
自宅で過ごせること。
どれもQOLに関係しますが、一つの状態だけでQOLを判断することはできません。
病状や検査値が改善しても、患者さんが大切にしていた生活を送れなくなる場合があります。反対に、身体機能に制限があっても、本人が意味を感じる時間を過ごせていることもあります。
この記事では、QOLの基本的な意味、緩和ケアとの関係、看護師が評価するときの視点、小児緩和ケアにおける捉え方を解説します。
QOLとは
QOLは、Quality of Lifeの略で、日本語では一般的に「生活の質」と訳されます。
WHOはQOLを、個人が、自分の暮らす文化や価値観、目標、期待、基準、関心との関係の中で、自分の置かれている状況をどのように認識しているかという概念として示しています。
この定義からもわかるように、QOLには本人の受け止めが深く関係します。
医療者から見て病状が安定していても、患者さんが「大切なことが何もできない」と感じている場合があります。
一方で、病気による制限があっても、本人が望む人と過ごせることや、好きな活動を続けられることに満足を感じている場合もあります。
同じ病状や身体機能であっても、QOLの捉え方は人によって異なります。また、病状、治療、生活環境、周囲との関係、本人が大切にすることの変化に伴い、QOLも変化します。
QOLと健康関連QOLの違い
QOLに関連する言葉として、健康関連QOL(Health-related Quality of Life:HRQOL)があります。
QOLが生活全体を広く扱う概念であるのに対し、健康関連QOLは、病気や治療、健康状態が生活に与える影響に焦点を当てたものです。
臨床研究や治療効果の評価では、身体機能、心理状態、社会生活などを質問紙で測定する健康関連QOL尺度が用いられることがあります。
ただし、どの尺度を使用しても、その人が大切にしている生活のすべてを数値で表せるわけではありません。
緩和ケアでQOLが中心となる理由
WHOは緩和ケアを、生命を脅かす病気に関連する問題に直面している患者さんと家族のQOLを向上させるためのアプローチとして示しています。
緩和ケアでは、痛みや呼吸困難などの身体症状を和らげることが重要です。同時に、症状が軽くなったことで患者さんの生活がどのように変化したかまで見ていく必要があります。
- 夜に眠れるようになった
- 家族と落ち着いて会話できるようになった
- 自分でトイレまで移動できるようになった
- 好きなものを少量食べられるようになった
- 外出や退院を考えられるようになった
- 治療について考える余裕が生まれた
症状の数値が下がったことだけでなく、その変化が患者さんの生活にどのような意味をもったのかを確認することで、ケアの効果をより具体的に評価できます。
また、QOLと生命予後は、常にどちらか一方を選ぶ関係ではありません。
治療によって症状が軽くなり、生活しやすくなることもあります。緩和ケアによって治療の副作用や苦痛が和らぎ、希望する治療を続けやすくなる場合もあります。
緩和ケアは治療をやめるためのケアではなく、治療中を含めて、患者さんがどのように生活したいかを支えるケアです。
QOLを形づくるもの
QOLには、身体状態だけでなく、心理面、生活、人間関係、環境、本人が大切にしていることなどが関係します。
| 側面 | 確認する内容の例 |
|---|---|
| 身体面 | 痛み、息苦しさ、倦怠感、吐き気、睡眠、食事、排泄など |
| 心理面 | 不安、落ち込み、恐怖、いらだち、安心感、先の見通しなど |
| 活動・生活面 | 移動、身の回りのこと、仕事、学校、遊び、趣味など |
| 人間関係・社会面 | 家族や友人との関係、役割、孤独感、社会とのつながりなど |
| 生活環境 | 療養場所、経済面、利用できる制度、プライバシー、支援体制など |
| 価値観に関わる面 | 大切にしたいこと、希望、選択への参加、生きる意味や役割など |
これらは独立しているわけではなく、互いに影響します。
たとえば、痛みが強くて眠れない状態が続けば、不安やいらだちが強くなることがあります。外出できなくなれば、友人とのつながりや仕事上の役割が失われたように感じるかもしれません。
反対に、痛みが完全になくならなくても、家族と食卓を囲めるようになったことで、患者さんが生活の改善を感じることもあります。
トータルペインとQOLの関係
トータルペインは、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインが互いに影響することを捉える考え方です。
トータルペインの視点は、患者さんの苦痛がどこから生じているのかを考える手がかりになります。
QOLの視点では、それらの苦痛が患者さんの生活に何をもたらしているのか、患者さんが現在の生活をどのように受け止めているのかまで確認します。
両者には重なる部分がありますが、苦痛を分類するだけでは、患者さんにとって望ましいケアの目標までは決まりません。
症状が軽くなればQOLも向上するとは限らない
たとえば、鎮痛薬の調整によって痛みが軽くなった一方で、眠気が強くなり、患者さんが家族との会話を楽しめなくなったとします。
痛みの数値だけを見れば、治療は効果的だったと評価できます。
しかし、患者さんが「多少痛みがあっても、起きて話せる時間を残したい」と考えているのであれば、薬の量や使用する時間、ほかの緩和方法について再検討する必要があります。
反対に、眠気があっても「今は痛みをできるだけ抑えて休みたい」と希望する人もいます。
どちらが正しいということではありません。
看護師には、治療やケアによって得られた効果と、新たに生じた負担の両方を捉え、患者さんの希望とともに医師や多職種へ共有する役割があります。
QOLはどのように評価するのか
QOLの評価には、本人の語り、尺度、日常生活の観察、家族からの情報などを用います。
| 評価方法 | 得られる情報 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 本人の語り | 本人が感じているつらさ、望む生活、大切にしたいこと | 話したくないことや、すぐには言葉にできないこともある |
| QOL尺度・質問紙 | 身体・心理・社会面などの状態と経時的な変化 | 点数だけで本人の生活全体を判断しない |
| 日常生活の観察 | 睡眠、食事、活動、表情、会話、他者との関わりの変化 | 観察した行動から本人の気持ちを決めつけない |
| 家族などによる代理評価 | 普段の生活、本人のこれまでの希望、家庭での変化 | 家族の評価と本人の評価は同じとは限らない |
質問紙の中には、患者さん本人が直接回答する患者報告アウトカム(Patient-reported Outcome:PRO)として用いられるものがあります。
本人が回答できる場合、その語りや評価は欠かせません。
一方で、意識状態、認知機能、発達、コミュニケーション方法などによって、本人が言葉や質問紙で伝えることが難しい場合もあります。
その場合は、これまで本人が話していたこと、現在の反応、生活上の変化、家族や多職種から得られる情報を重ねて考えます。
記録やカンファレンスでは、「確認できた事実」「本人が表したこと」「家族が捉えたこと」「医療者が推測していること」を区別すると、本人の経験を医療者の解釈だけで決めることを避けやすくなります。
QOLを支えるために看護師が確認したいこと
症状が生活に与えている影響を尋ねる
症状の有無や強さに加えて、生活への影響を確認します。
- どのようなときに一番困りますか
- この症状のためにできなくなったことはありますか
- 少し楽になったら、何をしたいですか
- 今も続けていたいことはありますか
すべてを一度に尋ねる必要はありません。患者さんの体調や話したい範囲に合わせて確認します。
ケアの目標を生活の言葉で共有する
「痛みを減らす」という目標だけでは、ケアの効果を患者さんの生活と結びつけにくい場合があります。
- 夜にまとまって眠れる
- 昼食の時間は椅子に座って過ごせる
- 家族と話せる時間を保つ
- 退院後に自分でできる動作を増やす
患者さんが望む生活を具体的な目標として共有すると、薬物療法、日常生活援助、リハビリテーション、環境調整などの方向性を検討しやすくなります。
治療やケアによる負担も評価する
医療者が必要と考えるケアが、患者さんに負担を与えることもあります。
処置の回数、服薬方法、通院、食事の制限、安静、モニター類、頻回な訪室などが、休息や楽しみ、人との時間を妨げていないか確認します。
安全性や治療上の必要性を踏まえながら、実施方法や時間を変更できないか、多職種で検討します。
本人の希望を繰り返し確認する
患者さんが大切にしたいことは、病状や生活の変化に伴って変わることがあります。
以前と異なる希望が示されたとしても、矛盾していると捉える必要はありません。その時点での体験や考えをあらためて聞き、ケアの目標を見直します。
小児緩和ケアにおけるQOL
子どものQOLを考えるときも、医療者や家族が望ましいと考える生活だけで判断することはできません。
子どもの生活には、次のような要素があります。
- 痛みや息苦しさが和らいでいること
- 安心して眠り、休めること
- 遊びや学びを続けられること
- 友人やきょうだいとのつながりがあること
- 自分に行われることについて説明を受けること
- 年齢や発達に応じた方法で選択に参加できること
- 一人で過ごす時間やプライバシーが守られること
- 好きな人、物、場所とつながっていられること
すべての子どもがこれらを同じように大切にするわけではありません。子どもが何を望んでいるのかを知るための視点として用います。
子ども本人と家族の評価は同じとは限らない
小児緩和ケアを受ける子どもと親を対象とした研究では、子ども本人と親によるQOLの評価に差がみられています。
これは、子どもがいつも楽観的である、親が悲観的であるという意味ではありません。
親は子どもの変化をよく知る大切な存在ですが、親自身の不安、疲労、将来への心配も抱えています。子どもが体験していることと、親が子どもについて感じていることは、別々に確認する必要があります。
言葉で十分に話せない子どもであっても、表情、視線、姿勢、遊び、絵、コミュニケーション機器、提示された選択肢への反応などを通して希望を示すことがあります。
ただし、泣く、黙る、拒否する、遊ばなくなるといった一つの反応だけから、痛み、不安、治療への意思などを決めつけることはできません。反応を手がかりにしながら、子どもに合った方法で確認を続けます。
子どもが望む時間をケアの目標にする
たとえば、倦怠感の強い子どもが「夕方に友達とオンラインで遊びたい」と話している場合、その時間を確保することが、その子にとって大きな意味をもつことがあります。
治療や処置の予定、休息、症状緩和の方法を調整し、可能な範囲でその時間に体調を整えることは、QOLを支える具体的なケアになります。
大人から見て小さな希望に思えても、子どもが現在の生活の中で何を大切にしているかは、子どもに確認しなければわかりません。
子どもと家族のQOLは分けて捉える
小児緩和ケアでは、子どもだけでなく家族も支援の対象です。
親の睡眠や休息、きょうだいの生活、仕事や経済面、家庭でケアを行う不安なども確認します。家族への支援が整うことで、子どもが安心して生活しやすくなる場合があります。
一方で、家族の希望をそのまま子どもの希望とみなすことはできません。
子どものQOLと家族のQOLは互いに影響しますが、それぞれの経験と希望を区別して捉える必要があります。
QOLについて誤解されやすいこと
自立しているほどQOLが高いとは限らない
ADLはQOLに関係する要素ですが、自分で何でもできることだけが良い生活とは限りません。必要な援助を受けながら、本人が望む活動や関係を保てることもQOLにつながります。
QOLを支えることは治療を控えることではない
治療によって苦痛が軽減し、大切な生活を続けられるのであれば、その治療はQOLを支える方法になります。治療の効果と負担を患者さんの目標に照らして考えます。
希望をすべて実現することがQOL支援ではない
医学的な安全性や利用できる支援によって、希望どおりにできないこともあります。
難しい理由を説明し、本人が何を大切にしているのかを確かめたうえで、別の方法で近づけないかを一緒に検討します。
QOL尺度の点数だけでは判断できない
尺度は状態の把握や経時的な比較に役立ちますが、点数の背景にある経験まではわかりません。尺度の結果を、患者さんとの対話やケアを考える入り口として用います。
まとめ
QOLは、病気や身体機能だけで決まるものではありません。
患者さんが現在の生活をどのように受け止め、何を大切にしたいと考えているかが深く関係します。その内容は人によって異なり、病状や生活の変化に伴って変わることもあります。
看護師は、症状の強さだけでなく、症状や治療が生活に与えている影響を確認します。そして、患者さんが保ちたい時間や活動を具体的なケアの目標として、多職種と共有します。
小児緩和ケアでは、子ども本人と家族の見方を分けて捉え、子どもが表す言葉や反応を丁寧に受け取る必要があります。
「この人にとって、今の生活の中で何が大切なのか」を本人とともに考え続けることが、QOLを支える緩和ケアにつながります。
参考資料
- WHO:WHOQOL – Measuring Quality of Life
- WHO:Palliative care
- 国立がん研究センター がん情報サービス:緩和ケア
- Toro-Pérez D, et al. Evaluating quality of life in pediatric palliative care. Eur J Pediatr. 2024.

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