患者が痛みを訴えるときその気持ちに寄り添うことはもちろんだが、それ以上に痛みの評価が欠かせない。
「優しいだけじゃ人は救えない」
っていうワンピースで好きな言葉がある。
ほんとにその通りで適切に痛みを評価してこそ寄り添いが意味をもつ。
痛みの評価項目をザっと書き出す。
- 痛みの部位
- 痛みの強さ
- 痛みの性状
- 痛みの出現時期と経時的変化
- 痛みのパターン
- 痛みの放散
- 痛みの増悪因子と軽減因子
- 随伴症状
- 日常生活への影響
- 現在の疼痛対策への反応
- 痛みに関する特別な問題
ザっと書き出してもけっこうあるように感じるかも。
でもこれら一つ一つが大切なことなので一連の流れで患者に確認できるようにしておきたい。
各項目を少しだけ解説しておく。
痛みの評価項目
痛みの部位
これはシンプルに”どこ”が痛いのか。
痛みの場所で患者の原疾患と照らし合わせて
ある程度の原因を絞ることができる。
痛みの強さ
訪室時の痛みの強さだけではなく”安静時の痛み”や”体動時の痛み”やここ最近(3日から1週間ぐらい)で最も痛かった時、最もましだった時なども確認しておくとよい。
痛みの強さはNRSやフェイススケール、FLACCなど統一して評価できる指標があるといい。
注意したいのはあくまで痛みの強さは”患者の主観”であるということ。
医療者が勝手に想像して痛みを評価せず患者本人の評価を認めることが大前提となる。
痛みの性状
これはどのような痛みであるかということ。
体性痛
「鋭く」「ズキズキ」など
内臓痛
「重い痛み」「鈍い痛み」「押されるような」など
神経障害性疼痛
「びりびり」「電気がはしるような」「灼けるような」など
痛みの性状である程度痛みの分類が判断できる。
痛みの出現時期と経時的変化
その痛みがいつから出現して現在はどうなっているのか。
たまに「足が痛い」と訴える患者の話をよく聞くと数分前にぶつけていたなんてこともある。
現病と結びつけてしまいがちだが実は全然関係なかったなんて可能性もあるのでこれは意外と大切なこと。
痛みのパターン
痛い時の状況だけでなく1日の変化を把握することが大切。
特に持続痛の程度や突出痛のタイミングなどを記録しておくとある程度パターン化されることがあり、鎮痛剤の量や時間の調節、レスキュー使用の指標にできる。
痛みの放散
放散というのは痛みの中心部からどの程度痛みの拡がりがあるかということ。
痛みの原因やその範囲を知ることができる。
痛みの増悪因子と軽減因子
痛みの強さを変動させ得る要因。
一般的な増悪因子
体動・姿勢・排泄・不安・夜など
一般的な軽減因子
安静・姿勢・排泄・保温・冷却・タッチングなど
痛看護師の評価する痛みの評価においてこの項目はかなり重要度が高いと思っている。
詳しくは後述する。
随伴症状
痛みの他にどのような症状があるか。
痛みの原因や病態を同定する参考になる。
日常生活への影響
痛みによって生活における何が妨げられているのか。
痛みで眠れない、痛みで動けないので排泄ができない、痛みで座位が取れないので食事ができないなど。
痛みそのものも大きな苦痛であるが、その痛みにより日常生活へどのような影響が出ているのかは把握しておかなければならない。
痛みを完全になくすことは困難でも日常生活への影響を少しでも抑えることはできる可能性がある。
現在の疼痛対策への反応
現在の痛み止めやその他の対策が効いているのか。
これはこまめに確認しないとせっかくの疼痛治療が無駄なものになっている可能性がある。
適宜確認してこまめに調整することで疼痛緩和を図る。
痛みに関する特別な問題
患者・家族にとっての痛みの意味、オピオイドに関する患者・家族の認識、民間療法への関心など。
時折医療者にとっては理解しがたいような考えを持つ患者・家族もいる。
そんな場合も医療者の正しさや価値観を押しつけず相手の価値観を丁寧に確認し、オピオイドに対する誤解など間違った認識はあらためつつ、相手の考えや生き方を認めたうえで対応を検討していく必要がある。
痛みの評価で大切なこと その1
痛みの各評価項目を知ってもらったうえで看護師として大切な項目は「増悪因子と軽減因子」だと思ってる。
もちろん他も全部大切なのは大前提としての話。
痛みの部位や原因や鎮痛剤の選択などは医師も積極的にしてくれるし相談できる。
でも「増悪因子と軽減因子」ってのはベッドサイドでこまめに患者と関わる看護師じゃないと気づかないこともある。
例えば(医療者から見て)すごい変な姿勢の子どもがいたとする。
そういう時に痛みがあるなら安静体位のほうがいいのではないかと良肢位を保ちたくなる医療者は多いと思う。
でも子どもにとってはその姿勢が一番楽であえてその姿勢をとっている可能性もある。
自分の経験をひとつ話す。
オピオイド使用中の子どもがでんぐり返しみたいに頭を下にしてベッド柵に持たれていた。
めちゃくちゃ首が痛くなりそうな格好だったから「ふつうに寝ん?」って聞いたら「今はこの姿勢が一番いいねん。もう少しこのままおる。」と言われたことがある。
なるほどと納得して退室した。
ここまでならよかったのだが、その後訪室した別の看護師が子どもに了承を得ず良かれと思って良肢位に体位変換すると痛みが増してオピオイドレスキューを使うことになった。
この子どもにとっては医療者から見た変な姿勢が疼痛の軽減因子であったということ。
痛みは患者の主観である。
たとえどんなにおかしいと思っても自分からわざわざしんどいことをする人は少ない。
(自分で体位変換できないとかはもちろん別の話)
なぜそのような行動をとっているのか本人に聞いてから安全性やその他の状況をふまえてその行動を継続していいかどうか判断する必要がある。
ちなみにさっきの経験談の時、自分は退室したがそのあとは意識的にもう一度訪室するつもりだった。
その変な格好でどれぐらい過ごすのか、その姿勢で過ごすのもいいがレスキューという選択肢もある事などなど一度子どもの意見を受け入れてから時間がたってあらためて様子を見に行くことで“気にかけていること”を伝え、もう一度一緒に相談しようと思っていた。
レスキューの後で訪室すると子どもからは良肢位にした看護師への文句が出た。
そらそうだと思いつつ話を聞き、看護師間で連携できていなかったことを謝った。
子どもはおれに対しては全然怒ってなくて何で謝るの?って感じだったけどこういう看護師の連携不足で子どもがつらい思いをするのはやはりこちらに非があったと思う。
変な姿勢というのは稀なケースだと思うが、好きなおもちゃ、ゲーム、YouTube、お母さんがいることなどその子にとっての軽減因子をカンファレンスできちんと共有しておき、痛みが強い時に鎮痛剤以外の方法も準備しておけると役に立つと思う。
逆に増悪因子にしても同じ。
大切な予定(誰かとの面会など)がある前は安静時間を作り痛みの増悪を予防することが大切。
面会で例えると、昼過ぎに面会があるから昼からはゆっくりできるように朝のうちに必要なケアは全部しておこうって考えるのは少し危険。
清潔ケアは面会前にしておきたいと考える患者も多いかもしれないが、午前中にケアを詰め込むことで疲労感から痛みが増す可能性もある。
そのような場合もまずは患者自身とスケジュールを相談する。
結局それが一番大切なこと。
痛みの評価で大切なこと その2
もうひとつ大切なことは「日常生活への影響」。
上述したが、痛みへの対処方法はいくつかある。
でもどれだけ頑張っても痛みを完全にゼロにすることができないこともある。
なので痛みのコントロールの目標を「痛みをゼロにする」としてしまうのは正直達成できるかかなりあやしいのでおすすめしない。
目標を立てるなら今現在痛みによって妨げられている日常生活に焦点を当てるほうがいいかと思う。
痛みにより眠れていない患者なら「痛みに妨げられずに睡眠がとれる」とかね。
ここで注意してほしいのは熟眠感というのも患者本人にしかわからないものなので「8時間は寝てたのに寝不足なんてことはないでしょ?」って医療者が勝手に評価してはいけない。
逆に4時間しか寝てなくても元気いっぱいの人もいるしね。
日常生活への影響に関することを目標することで患者自身も痛みそのものをどうにかするよりわかりやすいし前向きになる人も多い。
痛みを含めた症状マネジメントっていうのは医療者がマネジメントするんじゃなくて”患者自身”がマネジメントするのが正しい意味。
患者自身がセルフマネジメントできるように医療者はサポートする。
分かりやすい目標を一緒に立てるというのは立派なサポート。
痛みに対して適切なアセスメントを行い、患者のセルフマネジメントをサポートできる医療者がもっと増えていけばいいなと願ってる。
もちろん自分自身の精進も怠らないように。
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