【目指すべき場所】おれにはおれの緩和ケア

「術後疼痛は緩和ケアの対象になるかならないか」

そんな議論をしたことがある。

緩和ケアをよく理解している人にとっては“議論するまでもないこと”かもしれない。

少なくとも自分はそう思う。

ではこの議論がどこで行われたか。

それは「緩和ケア認定看護師教育課程」の中でのこと。

つまり緩和ケアのスペシャリストを目指す人が集まる中で起きた議論である。

さらにいうならそれは1度ではない。

場所を変え人を変え、何度も議論した。

その理由は1つ。

自分の思う緩和ケアとみんな(緩和ケア医や緩和ケアCNを含む教育課程で関わった人たち)の思う緩和ケアにいろいろと隔たりがあったから。

当時の環境では「術後疼痛や一過性の疼痛(骨折など)は緩和ケアCNが行う疼痛緩和の対象ではない」という意見(そこまではっきり断言されたわけではないがほぼそう捉えられた)がめちゃくちゃ多かったんだよね。

これが4.5年前の話。

みなさんはどう思うだろうか。

今これを読んでくれてる人は「そんなばかな」って人が多いかもしれない。

でもほんの4.5年前は骨折に関する疼痛緩和のアプローチを真剣に語ると「何言ってんだこいつ?」って雰囲気になることもあった。

ケア対象者の話になったとき、自分は「すべての人が緩和ケアの対象になり得る」ことを前提として話していた。

自分の中では緩和ケアというのは“究極の基礎看護”だと言っても過言ではないと思っているから。

でも緩和ケアCNを志す多くの仲間は違ったんだよね。

「骨折にも緩和ケア?確かに疼痛はあるけど一過性で他は元気だから治療では?」

「それって風邪でしんどい人にも緩和ケアってこと?」

などなど意見をもらった。

緩和ケア医にも同じような話をされたことがあるし何なら「その考えには同意できない」と明確に否定されたこともある。

苦しかったよね。

自分が信じてきた緩和ケアに同意してくれる人が少なくて。

悔しかったよね。

実臨床で緩和ケアを実践している人たちに何も言い返せない自分がいて。

どうにもならない気持ちをくすぶらせたまま過ごす日々。

でもある時ふと思った。

そもそも緩和ケアCNを志した環境がまるで違うんだから意見に相違があるのも当然。

みんなで同じ緩和ケアをする必要なんてない。

おれにはおれの緩和ケア。

それでいいじゃないかと。

おれはがん看護の経験をほとんどせずに緩和ケアの世界に足を進めた。

それまで見てきた世界はNICUで小さく生まれた子どもたちが周りのサポートを受けながら少しずつ大きくなっていくのを支える世界。

大人になることなくこの世を去っていく子どもたちを支える世界。

大きくなった子たちがその後も後遺症なく元気に成長していくことを見守る世界。

世界なんて言葉を使うと大げさに感じるね。

でもそういうことなんだと思う。

おれはもともとがん看護から緩和ケアに進んでない。

他の多くの人たちがたどってきた道筋を通ってない。

だから多くの人たちの考える緩和ケアとずれが生じることも多いんだと納得した。

納得した上で思った。

どうにか伝えられないものかと。

がん以外でも多くの苦痛を感じている人がいる。

身体の弱ってきた高齢者だけじゃない

生まれたばかりの赤ちゃんも苦痛を伴う状況にある。

がん以外にも緩和ケアを求める人はたくさんいる。

その現実をどうにか伝えられないものかと。

付き合いが長くなればなるほど理解を示してくれる人は増えた。

特にクラスメイトの大半には伝わったと思う。

心残りは話す機会の限られる緩和ケア医や講師の人たち。

自分の思いをうまく伝えられないことが本当に残念でモヤモヤしていた。

モヤモヤしながらも教育課程を無事に卒業し、小児緩和ケアの世界にスペシャリストとして足を踏み入れた。

それから現在に至るのだが、つい最近開催された「第27回緩和医療学会」でこのモヤモヤをすべて吹き飛ばす講演を聞けた。

「がん性疼痛だけが特別ではない。術後疼痛などもすべて緩和ケアの対象である」

そうはっきりと明言してくれた講師がいた。

モヤモヤが吹き飛んだだけでなく今まで信じてきた緩和ケアは間違いじゃなかったと心から救われた。

モヤモヤの当時から4.5年の歳月が経ち、がん以外のいわゆる非がんに対する緩和ケアの理解が進んでいる。

今の時代に「術後疼痛は緩和ケアの対象になるかならないか」なんてテーマで議論したら鼻で笑われそうだけど。

そんな時代になって本当に良かったと思う。

すべての人に緩和ケアを届けられるように。

すべての子どもが少しでもつらい思いをしないように。

緩和ケアの役割や対象がいい具合に拡大していけばいいと願う。

自分の理想としては“緩和ケア認定看護師”なんて大それた肩書は消え去ってすべての医療者が緩和ケアどんとこいって状況になればいいのになって思う。

緩和ケアは一部の人のための特別なケアじゃない。

それを拡げていくためにスペシャリストである自分たちがこの時代で頑張ろうと思う。

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