Vol.19【主観的評価を取り入れた心強い尺度とは?】STAS-JからIPOSへ

緩和ケアのちょっとためになる話Vol.19

今回はIPOSの話。

なんだけどそもそも「IPOS」って知ってる?

多分知らない人の方が圧倒的に多いと思うので基本的なところをまとめてみました。

とにもかくにもまずはポスターをどうぞ。

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IPOSについて話す前に「STAS-J」について少しだけ説明しておく。

STAS-JというのはSupport Team Assessment Schedule(STAS)の日本版(J)のこと。

元々は緩和ケアの成果とケアの質を客観的に評価するために1990年代イギリスで開発されたスケールとなる。

STAS-Jは世界的に使用されており、重要なツールとして現在まで使われ続けている。

STAS-Jの最大のメリットは医療者が行う“客観的評価”なので患者側にほとんど負担がないことが挙げられる。

しかしデメリットとして、評価を行う医療者がある程度STAS-Jについて熟知しておかなければ客観的評価の内容に違いが出てしまう点がある。

しっかりとSTAS-Jについて理解し、チーム全員で共通理解したうえで使用することで適切な評価を行うことができる。

そんなSTAS-Jが長らく使用されていたのだが、医療における“主観的評価”の重要性が注目されたことで“客観的評価”のみで評価するSTAS-Jでは十分にカバーできない部分が出てきた。

そこで“主観的評価”も評価できるようにSTAS-Jが改良され、その後継版としてIPOSが開発された。

IPOSについてはポスターの通り。

STAS-Jの弱点である“主観的評価”ができるのが最大の強みだ。

ただ“主観的評価”というのは言うまでもなく患者自身の評価ということになる。

そのため、患者の体調によっては負担を強いる可能性もあるため、その点に関してはデメリットにもなりうる。

その場合はIPOSを使用して代理評価(客観的評価)をすることもできるので患者に応じて使い分けをすることもできる。

そういった点も“客観的評価”のSTAS-J改良版として引き継がれたメリットである。

ポスターでもふれたがIPOSの目的は大きく2つ。

1.患者の状況を包括的に評価することによる適切な介入ができる
IPOS では症状による苦痛だけでなく、「生活への支障」を確認している。状態によっては症状そのものを改善することは困難でも、工夫次第で生活への支障を軽減し、QOL の向上を図ることは可能となる。

この「生活への支障」ってのがとても大切。

医療者はどうしても“苦痛そのもの”に意識が向きがちなところがある。

痛みがある。

息苦しい。

しびれがある。

などなど各症状に対してどうにかその苦痛症状を取り除こうと考える。

もちろんそれは当然のことで苦痛を取り除けるにこしたことはない。

でもどうしても取り除けない苦痛も残念ながら存在する。

そんなときに大切なのが「生活への支障」である。

例えば痛みを0にできなくても“ここまで軽減できれば○○できる”という患者なりのラインがある。

そのラインを丁寧に話し合いながら目標として設定することで“苦痛そのものの改善”は困難でも「生活への支障」を軽減することを目指せるというわけ。

この視点は非常に重要なのでIPOSを使用するかどうかに関わらず覚えておいてほしい。

2.患者とスタッフのコミュニケーションの促進を図ることができる
IPOS を使用することで患者の気がかりや困りごとを把握し、その情報をもとに患者とのよりよいコミュニケーションにつなげることができる。※スコアをよくすることだけが目的ではないので注意

“主観的評価”という最大の強みである患者とのコミュニケーションのことである。

コミュニケーションなら普段から意識しているという人もたくさんいると思う。

でも目的1で挙げたように「生活への支障」を確認するIPOSを使用することでより具体的な困りごとを把握しやすくなる。

また、苦痛症状についてもある程度網羅しているので何のツールも使わずにコミュニケーションを取るよりずいぶん話しやすく感じると思う。

そもそもIPOSを使って話す時点で「苦痛症状や生活について話しましょう」という前提ができるので話す環境が整うというのもメリットである。

そして※で書いたが“スコアをよくすることが目的ではない”というのも重要なこと。

スコアをつけるという性質上、どうしてもスコアを良くしようと思ってしまう。

もちろん悪いことではないが、IPOSの本質は「患者との対話」だと思っている。

患者がどのような苦痛を感じており、それによりどのような気がかり、困りごとがあるのか。

それを患者自身と向き合って対話することこそがIPOSを使う大きな意義である。

なのでスコアを上げることばかりを意識しすぎて患者との対話をないがしろにしないように注意が必要である。

苦痛に関する包括的な評価ができる尺度としてIPOSを紹介した。

痛みや呼吸苦などの限定的な評価をするならほかにも有用な尺度は多くある。

なので場面に応じて“包括的評価が必要”なのか“限定した評価で十分”なのかを判断しながらうまく使い分けできればいいのかなと思う。

おわり。

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