緩和ケアのちょっとタメになる話Vol.10。
今回はオピオイドの精神依存の話。
オピオイドの勉強を続けていると必ず「依存」と「耐性」という言葉が出てくる。
「耐性」に関してはオピオイドに関わらず様々な治療の場面でぶつかる問題だと思うのでオピオイドでも同様のイメージを持ってもらえればと思う。
じゃあ「依存」はどうだろう。
いわゆる“薬物依存”というもの。
有名なのは芸能人なんかが白い粉に手を出して逮捕されたりする麻薬中毒が一番わかりやすいかな。
そのイメージがあるから“医療用麻薬”に対しても同様の「依存」が起こる不安を抱く人は多い。
しかし医療用オピオイドは適切に使用すると「身体的依存」はほとんど起こらない。
これは適切に使用すれば“起こらない”と信じてもらってもいいぐらいだと思ってる。
じゃあ「精神的依存」はどうなのか。
そこが今回のテーマです。
968f7854a2af554fd56280ede7e2ab92-1残念ながらどれだけ適切にオピオイドを使用しても「精神的依存」は完全に防ぐことはできない。
予防することができないのであれば「精神的依存」が起こる可能性やその兆候、実際に精神的依存が疑われるときにどう対処するのかを知っておく必要がある。
「精神的依存」に陥る前段階に「ケミカルコーピング」という状況になる。
“ケミカル”=“化学物質”
“コーピング”=“ストレスなどへの対処”
つまり“オピオイド”という薬(化学物質)を使ってストレスへ対処しようとしているという状況。
この状況は本来の目的である“痛み”ではなく“ストレス”に対処するためにオピオイドを使っているということが問題となる。
もし痛みが軽減されているのにストレス軽減のためにオピオイドを使っているとなると精神的依存だけではなく「身体的依存」にも発展する。
そのため、もしケミカルコーピングが疑われる状況になれば早急に対処する必要がある。
ケミカルコーピングが疑われる状況というのは具体的には頻回(医療者の想定以上)のオピオイドレスキューが使用される(希望している)ような状況である。
まず最優先なのは適切な痛みの評価である。
頻回のレスキューは疼痛緩和が不足しているサインでもあるので痛みを評価してベースアップを行うなど対処方法を検討する必要がある。
痛みの評価を行い、ベースアップや薬剤変更など可能な対処を行った。
それでもレスキューが減らない場合。
ケミカルコーピングの可能性を考える。
ケミカルコーピングへの対処は抽象的な表現になってしまうが
「患者の抱える『心のつらさ』に焦点をおいて対処する」である。
これは明確な答えがないため時間がかかる。
患者と丁寧に向き合いながらコミュニケーションを図るのが最善の方法となる。
くりかえしになるがケミカルコーピングを疑うのは必ず“痛みの適切な評価”やその対応をしてからである。
最初からケミカルコーピングを疑ってしまうと疼痛緩和が不十分な場合を見逃してしまう可能性があり、患者にとっては最も耐え難い状況となってしまう。
見逃してしまうような状況を「偽依存」という。
適切な痛みの評価をすることによって「偽依存」でないことを確認した上で対処するのが大切である。
“ケミカルコーピング”や“精神的依存”は判断に難しい状況ではあるが「くり返しのレスキュー希望に困る場面」はそれなりに遭遇すると思うので頭の片隅にこういう言葉もあったなって覚えておいてもらえればと思う。
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