vol.24【相手の望み通りにすること?】価値観の尊重

今月の“緩和ケアのちょっとタメになる話”。

テーマは「価値観の尊重」。

医療者なら何度も何度も耳にするだろうこの言葉。

「患者・家族の価値観を尊重した看護をしましょう」

もういいよ。

って思う人もたくさんいると思うんだけど「価値観の尊重」っていったいどういう事だろうか。

というのを今一度考えてほしいなと思い、このテーマを選定した。

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言いたいことはたった一つ。

“「価値観を尊重する=相手の望み通りにすること」ではない”ということ。

「価値観を尊重しましょう」という話をすると、どうしても相手の望むとおりに、言うとおりにすることだと勘違いする人があらわれる。

相手の価値観を尊重するならそうなるじゃんって思う人は「尊重する」の意味をもう一度考えてほしい。

尊重するというのは「尊んで重んずる」ということ。

相手の考えを認めて否定をしないというニュアンスは含まれるが、絶対順守するというニュアンスは含まれない。

ここを勘違いすると「価値観を尊重した看護なんてできない」となってしまう。

よくある話としてモルヒネの使用について例を挙げる。

痛みがあるけどオピオイドは使いたくないという患者。

医療者としては“オピオイドを使った方が楽になる”と考える人が多いだろう。

そういう場合にどうするか。

もし、「価値観を尊重する=相手の望み通りにすること」だとすると、この時点で医療者の思いは捨て去り、“患者が使いたくないと言うから使わない”という何とも残念な結果になってしまう。

もちろんそんな対応が価値観を尊重しているはずはない。

まずは当然、理由を確認する。

「オピオイドを使いたくない理由はなぜですか?」

その理由が「少しぐらい痛みがある方が“生きてる”という感覚を得られるからです」だとする。

これは実際に自分が言われたことのある言葉。

この返答の場合は、患者の価値観として“痛みをすべて取り除くことに重きを置いていない”ということがわかる。

痛みを通して自分の生きる力を感じているということ。

そういう考え方もあるかもしれない。

それならば無理にオピオイドを勧める必要はない。

その場合は、どの程度の痛みなら我慢できるのか、逆にどの程度痛みが増悪したら対応をする必要があるかということを、状況を見ながらくり返し検討していくことになる。

では、「オピオイドを使いたくない理由はなぜですか?」の返答が以下の場合はどうだろう。

「オピオイドって麻薬ですよね。麻薬は使ったら死ぬまでやめられないと聞きました。それに麻薬って悪いものですよね?」

これに似た言葉も実際に言われたことがある。

この返答の場合は「麻薬」という言葉への誤解が生じている。

つまり、患者自身の価値観として「オピオイドを使用しない」という選択をしているわけではなく、誤った情報でその選択をせざるを得ないだけである。

この場合はまずは誤解を解く必要がある。

誤解を解くというのは説得ではない。

患者の持つ誤った情報を訂正し、正しい情報を元に、その上でどうするかをあらためて一緒に考える。

誤解を解いてもやはり怖いという感情が残るのであれば、オピオイド以外の方法を再検討するもよし、お試し程度のごくごく少量から始めるもよし、現在の痛みの程度と生活への支障、患者自身の思いを天秤にかけながらくり返し話し合いを重ねていくことになる。

さらっとした例え話だが、これを読んでくれているみなさんも似たような状況に直面したことはあるのではなかろうか。

そういう時にちゃんと理由を聞いて、患者の価値観、つまり患者が何を大切にしているのかを確認しながら相談できると、医療者にとっても、患者にとっても納得のいく選択ができるかもねという話でした。

「価値観の尊重」って言葉は看護学生時代から耳にタコができるほど聞かされていると思うけど、それだけ奥が深いし大切なことなんだよっていう事をあらためて整理してみました。

明日から他人の価値観にいつもより少し敏感になれたらいいなと思いつつ。

おわり。

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